親はうちの子の専門家
「7カ月男児、高熱で初めてのけいれん。現在は止まっていますが収容願います!」。医者になって10年目のある夜、地域の小児科当番で待機していた勤務先に赤ちゃんが救急車で運ばれてきました。お母さんの腕の中で泣いています。
ボクは、ひととおり診察して特に心配ないと判断して「ご自宅で様子をみましょう」と伝えました。するとお母さんが「上の子も熱性けいれんはあったが、こんなにぐったりではなかった。ただの熱性けいれんじゃないはずだ」と訴えます。
そうかなあと思ってあらためて赤ちゃんの頭のてっぺん(大泉門と言います)を触ってみると、確かにはれているような気がします。検査の結果、細菌性髄膜炎という怖い病気と分かりましたが、診断が早かったため、後遺症なく治りました。お母さんの観察眼に、赤ちゃんだけでなくボクまでも助けられたわけです。
医者になって数年目のころは何でも分かっているし、どんな病気も治療できると思っていました。が、こどもと毎日一緒に過ごし、見て、話して、状態を誰よりも把握している親や家族の皆さんの「見立て」に、診察室で数分間接するだけのボクがかなうはずもありません。また、多くの病気はこども自身の力で治っていきます。知識や情報、経験を生かして状態を判断し、心配を和らげるようよく説明しながら、正しい方向へと後押しする。小児科医の真の役割はその辺りではないかと、20年選手となった最近は思うのです。
「うちの子の専門家」である親や家族の皆さんを、「こどもの健康と病気の専門家」の小児科医やスタッフがお手伝いして、こどもたちを優しく守っていきたいものです。