5分間の心の余裕を
少なくとも昭和の時代までは、カゼをひいたかなと思った時にわきの下にはさむのは水銀計でした。5分くらいじっとしてから取り出して、水銀の先が赤い「37」の数字を超えているかどうか、ハラハラしながら目盛りをのぞき込んだものです。小学生の時、水泳の授業がイヤで、毛布で水銀計をゴシゴシとこすって「熱があるから」と学校をズル休みしたのは、ボクの永遠の秘密です。
体温を測るその5分の間、お母さんやお父さんはこどものおでこに手をあてて様子をうかがいながら、大丈夫かな、医者にみせた方がよいかな、と判断していたのではないでしょうか。ところが最近は、デジタル計でピピッと数秒で計測できてしまいます。判断材料をこどもの様子から得る間もなく、出た数字だけを頼りに夜でも休日でも病院へ直行、というパターンを後押ししているかもしれません。
多くの場合、病原体に対してからだが正常に反応した結果として熱が出ます。「ちゃんと闘ってるからね~」というお知らせのようなものです。「こんなに高い熱では頭がどうかなってしまうのでは?」とよく心配されますが、熱そのもので最初から脳がダメージを受けるということはありません。病原体が直接、間接に脳や神経に強く作用すれば可能性はありますが、そうなれば熱だけでなく、激しい頭痛や吐き気、けいれんや意識障害といった症状を伴うはずです。
熱があるからとあわてて病院に駆け込む前に、まずはこどもが安心して休める環境を整えることが大切です。そのためには、お母さん、お父さん自身が落ち着いて「大丈夫だよ」と言ってあげられるよう、「5分間の心の余裕」を持って、がんばっているこどもに寄り添うことが第一歩です。